最後に命を守るのは人の力

2007年01月15日 読売新聞から

阪神・淡路大震災から12年。わが国の減災対策はこの間、飛躍的に向上した。災害情報はIT技術の進歩で高度化し、欧米で標準化されたシステムが行政の災害対応に導入され、復興のために事前の計画立案の重要性が説かれている。その知恵を伝え生かすのは最終的に人。「知の力」が問われている。

首都圏直下型地震で区域の4割が焼失するとされる東京都荒川区は約30年前、町内会単位で防災区民組織を作った。自力で避難できない高齢者や障害者らを近所の人が背負って助ける「おんぶ作戦」は23年前からある。しかし、高齢化と新住民が増えたことで、意識が薄れ始めている。同区防災課長は「訓練では、お年寄りがお年寄りをおんぶしている。若い世代が無関心」と嘆く。

 04年秋、全国に大きなつめ跡を残した台風23号。最新鋭を誇る兵庫県のフェニックス防災システムに弱点が露呈したという。その原因は市町から入力される被害状況報告が一部市町から入らないことだ。だか、被害が大きい地域はそれどころではなかった。ある自治体から「水防、避難勧告、救助などに追われているのに無理」と指摘。

 巨大地震に備えシステムを高度化しても、入力する人や受け取る人が十分に使いこなせなければ意味がない。最後に命を守るのは人の力だ。

災害情報を住民に伝える場合、一方的に情報を伝達するのではなく、受け手の立場になって考えることが大切。こうした考え方は「リスクコミュニケーション」と呼ばれる。従来の行政は「住民を不安がらせない」や「無用の混乱を招くことがないように」と配慮していたが、社会の不安を招くのは情報がもたらされない、そのことにある、というように変わってきた。

 

2004年と05年、大型台風に相次いで襲われ、都市部の河川氾濫を経験した首都圏で水防情報を改善する自治体が増えた。横浜市では、昨年7月からパソコンと携帯のホームページに市内の河川53か所での水位情報に加え、うち7か所の画像を掲載しており、「一目で水位がわかり、危機感を持てる」と市民に好評。東京都世田谷区では震度3以上の地震、大雨注意報・警報、水位などが基準を超えた場合に緊急メール送信するシステムを整備した。

 

福岡市は02年から市外を含む29か所の水位観測データを公開。05年9月の台風25号の際、宮崎市はホームページに「災害情報掲示板」を3週間にわたって開設した。河川、避難、道路、電気・水道などライフライン情報を市当局だけでなく市民からの情報もアップし、問い合わせにも答えるようにした。「受け手の立場に立って」と改善されたものばかりで、住民にわかりやすい用語や表現を使い、素早い判断や行動に結びつくよう、工夫している。

 

こうした努力も受け取る側の意識が低いと水泡に帰す。今月13日に千島列島沖で発生したマグニチュード8・2の地震。津波警報などで、避難勧告が出されたが、避難した人は少なかった。昨年11月15日夜にも千島沖地震があり、津波警報の対象となった北海道の22市町村すべてが住民に避難勧告・指示を出したが、対象住民約13万人のうち避難したのは1割だった。

 その要因に、過去にうまくいった経験を基に、「自分だけは大丈夫」とか「今回は安全」といった気持ちになりやすいという意識の問題があるとされる。専門家はこれを「正常化の偏見」と呼ぶ。ある岩手県立大助教授は「普段の暮らしの中で災害が起きたらどうなるのか、どうするのかをイメージしておくことが大切。災害はいつも同じ姿をしているとは限らないので経験を過信してはいけない。いざという時により安全な方を選択することが重要」と提言する。

投稿者 文洋株式会社 : 2007年6月18日 16:04